未踏の未来へ、リース会社の枠を超えて挑む――
新ビジネスの開発を加速する「インキュベーションセンター」を設立
2026年05月28日
三菱HCキャピタル(以下、当社)は、2031年度のありたい姿として「未踏の未来へ、ともに挑むイノベーター」を掲げています。このビジョンを単なるスローガンに終わらせず、既存の枠を超えた新ビジネスを連続的に生み出すための専門組織として設立されたのが「MHCインキュベーションセンター(以下、MHCIC)」です。
なぜ今このようなチャレンジが必要なのか。そして、新ビジネスへの挑戦者が孤独に陥ることなく、事業化を「泥臭くやり切る」ための仕組みとは。MHCIC設立をけん引した赤塚、運営を担う髙橋、そして新事業化に取り組む当事者である寺岡の3名が、その舞台裏を語ります。

赤塚 大祐(画像中央):MHCインキュベーションセンター株式会社 代表取締役社長
2002年入社。自動車・農業機械分野における販売金融の営業を経て、植物工場や無人ヘリコプターなど農業分野における新サービス・新規事業開発に従事。2021年より事業研究・投資開発部にて、新ビジネス創出を加速させる施策「Zero-Gravity Venture Lab(通称:ゼログラ)」の立ち上げおよび運営に参画。2025年4月より現職。
髙橋 清隆(画像右):MHCインキュベーションセンター株式会社 Lab運営ユニット長
2010年入社。国内カスタマー分野にて法人営業を担当。2023年に開催されたゼログラ/ファウンダープログラム第1期の最終審査を通過し、「組織の暗黙知を可視化・活用するSaaS」の事業化検証に注力。2026年4月より現職として、新規事業プログラムの運営、事業開発および人財・案件創出の両面から新規事業の創出に取り組んでいる。
寺岡 孝規(画像左):MHCインキュベーションセンター株式会社 新ビジネス開発ユニット
新卒後、大手ノンバンクにて営業・リスク管理・経営企画業務を経験し、コンサルティング会社を経て2020年に入社。リスク管理業務に従事する中でのプライベートでの経験をきっかけに起業を志し、ゼログラ/ファウンダープログラムに挑戦。二度目のチャレンジで最終審査を通過し、2026年より現職として、「エンゲージハウス(購入可能社宅制度)」の事業化検証を推進している。
「現状の延長線上に未来はない」危機感から生まれた独立組織
――初めに、MHCIC設立の背景と、あえて別法人として独立させた狙いについて教えてください。
赤塚:当社はリースをはじめとしたさまざまなファイナンスサービスを展開していますが、現在のビジネスモデルだけでは成長に限界があり、既存の延長線上に未来はないという強い危機感があります。私たちは今、既存の枠を超えた新ビジネスを自ら生み出していかなければならないフェーズにいると考えています。
ファイナンスを基盤とする当社には、大きな損失を回避するためのリスク管理の知見が蓄積されてきました。
このことは既存事業を安定的に成長させるためには有効である一方、不確実性の高い新ビジネスにおいては、アジャイルな仮説検証や意思決定を阻む障壁となる恐れもあります。そこで、本体とは切り離した環境のもとで、失敗を恐れずに事業化検証に専念できる場としてMHCICを設立しました。
髙橋:MHCICの役割は大きく二つあります。一つ目は、当社の各営業組織が新ビジネスを検討する際の手段の一つとして、事業化検証の場を提供することです。
二つ目は、当社の新事業の開発を加速化させるためのプログラム「Zero-Gravity Venture Lab(以下、ゼログラ)」の運営を担い、変革を生み出す仕組みを構築することです。ゼログラは、社員の自由な発想と熱意を起点に、既存事業の延長線上にはない、新たな視点から独自性と進取性のある事業を連続的に創出する取り組みです。ゼログラの制度の一つである「ファウンダープログラム」は、発案者自身が新会社の責任者となることや自らが新会社に出資することを可能としており、新ビジネスの開発と社員の自己実現の両方をめざしています。2023年にプログラムをスタートして以降、これまでに5件が最終審査を通過、そのうち1件は新会社を設立し事業を開始しています。MHCICは単なる事務局ではなく社内ベンチャーを生み出すための「ラボ(場)」という位置づけにしたいという強い思いを持っています。私が所属する「Lab運営ユニット」では、ゼログラの企画・運営を担っており、発案者と共に汗をかき、新ビジネスを作るべく事業化検証を推進しています。
実は、私もゼログラのファウンダープログラム第1期の挑戦者でした。当時はまだ分からないことが多く、試行錯誤の連続で物事が思うように進まず、事業化の難しさを身をもって実感しました。 その時の「こんなサポートがほしかった、伴走者がいてくれればよかった」という発案者としての実感を、今の運営体制に反映させています。


――MHCIC設立にあたっては、社内からさまざまな意見があったと伺っています。
赤塚:既存事業が堅調な中で、なぜ今コストをかけてまで別会社をつくる必要があるのかと、社内には慎重な意見もありました。そうした議論を重ねる中で重視したのが、設立の意義を丁寧に言語化することでした。
単に「新しいことがやりたい」ではなく、なぜMHCICという組織が当社グループにとって必要なのかについて、経営層としっかりと認識を共有しました。具体的には、当社が行える業務には一定の制約があり、現状の枠組みの中で既存事業の延長ではない新ビジネスを生み出していくには課題があり、別会社として事業化検討を担う環境を持つ必要があることを時間をかけて説明しました。
MHCICは、そうした議論のすえに誕生した、非連続な成長につながる新ビジネスを連続的に創出していくための「実行の器」です。挑戦する社員を受け入れ、事業化検証に専念できる環境を整えることで、新たなアイデアを単なる構想に終わらせることなく、事業として成立させるところまで責任をもって取り組んでいきたいと考えています。
寺岡:私は新事業に取り組む当事者の立場ですが、赤塚さん、髙橋さんをはじめとするメンバーには、社内外の調整を含めた強力なサポートを頂いています。発案者が新ビジネス開発に集中できる環境を守るために尽力して頂いていると、日々の活動からも感じます。
赤塚:全社員が当たり前に挑戦できる環境をつくるために、「発案者をリスペクトする姿勢」を徹底し、成功・失敗にかかわらず次につなげます。社員が胸を張って「当社は挑戦する会社だ」と誇れる状態をめざしています。
「粗探し」から「宝探し」へ――評価軸のパラダイムシフト
――リースやファイナンスなどの金融を本業とする会社としてのリスク管理と、自由度の高い新ビジネスは相反するように思えますが、どのように両立させているのでしょうか。
赤塚:そこは大事なポイントです。例えば、ゼログラの選考プロセスにおいては、審査対応をいただく当社の役員や外部の有識者などに対し、審査の前に必ずマインドセットの共有を行っています。当社のようなリースやファイナンスを扱う会社は、リスクを細かく洗い出し、管理していくことは得意ですが、新ビジネスを検討する初期段階でそれをやりすぎると、新ビジネスの芽が全て摘まれてしまいます。だからこそ、審査のスタンスを「粗探し」から「宝探し」に変えてほしいとお願いしています。発案者のアイデアの中には、今はまだ小さくても光り輝くものが眠っているかもしれません。まずはその原石を探すことを共通言語にしたいのです。

髙橋:また、残念ながら審査不通過となった発案者へのフォローも徹底しています。どの部分が足りなかったのか、どうすれば再チャレンジできるのか、対面で丁寧にフィードバックを行います。実は、寺岡さんはその「再チャレンジ」の象徴的な存在なのです。
寺岡:はい。私はゼログラのファウンダープログラム第3期で「エンゲージハウス」という事業案が最終審査通過となり、現在は事業化に向けて鋭意取り組み中ですが、実は第2期で一度落選しています。理由は色々とあるのですが、当時の運営側からのフィードバックは非常に具体的で、かつ「あなたのポテンシャルを信じている」というサポーティブな内容でした。だからこそ、再挑戦してみようと前を向けたのです。
羅針盤とアクセルの両方を担い、事業化の蓋然性を高める
――新ビジネスの立ち上げに際し、MHCICでは具体的にどのような支援を行っているのでしょうか。
赤塚:まずは、ゼログラのファウンダープログラムについてお話しします。最終審査を通過した案件の発案者は、MHCICに異動し、本格的な事業化検証に専念できる環境に入ります。検証に必要な予算をあらかじめ確保したうえで、事業として成立するかどうかを腰を据えて見極めていきます。
実は2021年の統合前、旧社にもゼログラの前身となるような制度があり、新事業への挑戦を後押しする取り組み自体は行っていました。ただ当時は、予算と時間を与えた後の検証プロセスを発案者に委ねすぎた結果、途中で迷いが生じたり、判断基準が曖昧になったりして、事業化に至らなかったケースも少なくありませんでした。そうした反省を踏まえて、MHCICで導入したのが「事業化ガイドライン」です。
このガイドラインは、いわば事業化検証という大海原を進むための“羅針盤”です。初期仮説の検証、市場の定義、サービス開発、顧客利用検証といった各フェーズにおいて「何をどこまで検証すべきか」という判断軸を明確にすることで、不必要な迷いや停滞をできるだけ減らしています。ただし、これは完成形ではありません。実際の検証を通じて得られる学びを反映しながら、発案者とともに磨き上げていく、生きたガイドラインだと考えています。
髙橋:そして私たちは、単なる道筋を示すだけでなく、時に“アクセル”の役目も担っています。発案者が壁にぶつかったとき、アドバイスをするだけでなく、時には手足となって一緒に顧客のもとへ足を運び、検証を前に進める推進役になることもあります。
新ビジネスの文脈では「支援」や「サポート」という言葉が使われがちですが、私たちはあえて「協働推進役」という言葉を使います。MHCICには、同じ目線に立って一緒に悩み、試行錯誤しながら前に進んでくれる人がいる。そう思ってもらえる関係を築くことを、特に今年度は重視しています。

個人の体験を事業化へ。「エンゲージハウス」がめざす世界
――MHCICの具体的な取り組み例として、現在進行中のプロジェクト「エンゲージハウス」について教えてください。
寺岡:「エンゲージハウス」は、一言で言えば「働く人が購入できる借り上げ社宅」という新しいサービスです。通常、借り上げ社宅は利用期限が到来すると引っ越す必要がありますが、お子さんが小さいご家族など、生活環境を変えたくない方向けに、購入して住み続ける選択肢を提供する、という事業アイデアとなります。
このアイデアは、私自身が家族社宅の利用中に生活環境の変化に直面したことがきっかけで思いつきました。購入して住み続ける選択肢があれば、働く人が、ご家族に安心して暮らせる場所を確保しやすくなるはず、という思いで事業化をめざしています。
共働きの増加といったライフスタイルの多様化や、インフレ・住宅価格の上昇といった社会・経済の動向を踏まえ、企業が働く人に住まいの新たな選択肢を提示できれば、エンゲージメント(企業と従業員の愛着・絆)の向上につながるのではないか、と考えて、「エンゲージハウス」というサービス名にしました。
実現に向けてはさまざまなハードルがありますが、当社のアセットに関するノウハウや信用力があれば、実現できると思っています。

赤塚:寺岡さんのプレゼンは、ご自身のご家族への愛情が根底にあり、非常に熱量の高いものでした。個人の強い動機があり、それが会社のリソースと結びついたとき、社会を変える大きなエネルギーになると信じています。
寺岡:この事業のミッションは、「すべての働く人が家族の居場所を確保しやすくすること」です。これには、子どもが社会に出る頃には、住まいの不安に縛られず、自分のキャリアを自由に選べる働き方ができるようにしたい、という思いを込めています。その実現のため、MHCICのメンバーの方々によるサポートを筆頭に、会社がリソースを提供してくれていることについて、大変ありがたいと感じています。

髙橋:現在推進中のもう一つのプロジェクトである「SustaiNavigator(サステナビゲーター)」は、不動産部門の現場の担当者が抱えるリアルな悩みから生まれたアイデアです。現実の痛みを知っているからこそ、実効性の高いサービスが作れる。エンゲージハウスのような「個人起点」と、サステナビゲーターのような「現場課題起点」。個人の問題意識から始まる挑戦と、現場の痛みから生まれる挑戦。その両方を育てられることが、MHCICの大きな強みです。
グループ内に「スタートアップのエコシステム」を構築する
――最後に、MHCICがめざす中長期的な展望をお聞かせください。
赤塚:私たちのゴールは、MHCICから生まれた事業がグループの収益の柱になることです。ただ、0から1を作ってすぐに大きな利益を出すのは簡単ではありません。だからこそ、挑戦を「連続的」に行うことが重要です。
グループ内に社内ベンチャーが次々と生まれ、そこに人・モノ・金が適切に配分されるエコシステムを構築したい。将来的には、このインキュベーションの仕組み自体を、同じ課題を持つ他社へ提供するビジネスに育てることも視野に入れたいと考えています。
髙橋:私たちが挑戦し続けることで、会社全体に「自分たちでも新しいことができるのだ」というポジティブな空気感を広げていきたいですね。「社会や身近な課題に本気で向き合いたい」という熱い思いを持つ社員が、MHCICの機能をとことん使い倒して、自身が感じる課題の解決を実現してほしいと思っています。
寺岡:新ビジネスは確かにプレッシャーもあります。しかし、自分のアイデアを形にするプロセスは、何事にも代えがたい貴重な経験です。特にゼログラは会社のリソースを使って挑戦できる、挑戦を支援してくれる強力な体制もある、そしてなにより成功すれば社会を変えられる。こんな贅沢な環境を使わない手はありません。
赤塚:仕組みは整いつつあり、社員の「やりたい」という熱量を掛け合わせたい。MHCICは、当社が既存の枠を超えた存在へと進化するために設立しました。そのためにも、社内で相談や連携しやすいポジションを確立するとともに、「挑戦する会社」として、挑戦する社員の皆さんを本気でサポートし、一緒に誰も見たことのない景色を見に行きたいと考えています。
- ※本記事は2026年4月の取材内容に基づいています。
記載の部署・数値・取り組み内容は取材当時のものです。



