CEOメッセージ
「変革」は、まだ選択肢がある今しかできない
私はこれまで約40年間、国内外の金融機関に身を置き、さまざまな会社を見てきました。その経験を通して強く実感していることがあります。それは、「今うまくいっている会社ほど、変わることが難しい」ということです。優秀な社員が揃い、ビジネスモデルが機能し、一定の収益を上げている会社ほど危機感は生まれにくく、「変革」の必要性を直視することが難しくなりがちです。しかし、事業環境の変化は待ってはくれません。競争環境は絶えず、そして確実に変化していきます。そのような変化の影響が目に見える形で業績に表れたときにはすでに打てる手が限られている、そのような会社の姿を現実として何度も目にしてきました。だからこそ、「今うまくいっているから大丈夫」という考えは非常に危険で、問題が顕在化していない、まだ多くの選択肢がある今こそ「変革」を進める必要があるのです。
私は2023年4月の社長就任以来、「当社グループをこの先10年、さらにその先も真に選ばれる会社に変えていかなければならない」という思いを社内外に強く発信してきました。これは、単に規模を拡大することや、短期的な成果を追い求めることではありません。事業環境が変わっても価値を生み出し続けられる、本質的な強さを備えた企業へと進化し続ける必要があるというメッセージです。また、「社員が明るくハッピーでいられる会社でありたい」「社会から信頼され、リスペクトされる会社でありたい」という思いも発信してきました。これらは感情的なスローガンではなく、不確実性の高い外部環境のもとで、中長期的に企業価値を向上させていくために極めて現実的な考えで、経営者としての確かな実感に基づいています。こうした会社に変えていくために、これまで社員に対してしつこいくらいに「変革」の必要性を発信し続けてきました。また、昨年度までの3年間にわたる当社グループとして初めての中期経営計画、「2025中計」の施策にも「変革を促す仕組み」を取り入れてきました。こうした取り組みを経て、社内では「変革」の機運が高まってきたことを実感しており、社内のいたるところで「変革」の意識が芽吹き始めてきました。ただ、それでもなお「10年後に当社グループは存在していないかもしれない」という強い危機感を払拭するには至っていません。今年度から新たに「2028中計」が始動していますが、引き続き「変革」を強力に進めていく必要があると考えています。
2025中計の総括、成果と課題
2025中計を振り返りますと、「31年度のありたい姿」※1に向けた第一段階として、既存領域の再構築や再定義による「足場固め」、新領域への「種まき」、そして事業ポートフォリオ変革に向けた「ビジネスモデルの進化・積層化」といった、さまざまな変革施策に取り組んできました。
これらの取り組みにより、2025中計スタート時には想定していなかった事業環境の変化がプラスとマイナスの両面であったものの、業績は2025中計の3年間で毎年純利益目標を達成し、4期連続で過去最高益を更新してきました。こうした好調な業績を反映し、国内株式市場の上昇基調とともに当社株価も上昇、まずは最初の通過点と位置づけていたPBR1倍前後の水準まで到達することができました。これらはいずれも大きな成果だと考えています。
一方で、収益性に関する財務目標であるROEとROAは目標に届きませんでした。これは一部事業の低迷・不振や事業ポートフォリオ変革のスピードが足りなかったことなどが直接的な原因ではありますが、経営統合後初めての中期経営計画ということもあり、当社グループの全役職員が利益「額」という分かりやすい指標の目標達成を優先し、利益「率」であるROEやROAに対する意識を利益「額」と同じレベルにまで持っていけなかったことが背景にあります。これは社長としての私の責任であり、2028中計に積み残された課題です。
社内変革については、先ほども申し上げました「変革を促す仕組み」の施策を通じて、役職員の変革機運や挑戦意識が醸成されました。社外の方々からは「三菱HCキャピタルさんは最近いろいろ新しいことをやってるねえ。最近よく見聞きするねえ」といった声を耳にするようになりました。そのような声を聞くたびに、「変革」が着実に実を結びつつあることを実感していますが、このような施策がなくても自然発生的に新しい取り組みや挑戦が日々行われるようになるためには、「変革」を企業文化として定着させる段階まで引き上げる必要があり、これがもう1つの積み残された課題です。
今年度から始動した2028中計では、2025中計の積み残し課題であるこれらの2点について、これまで以上に当社トップとしてリーダーシップを発揮していきます。
- ※12022年5月に公表した「10年後のありたい姿」を、2028中計策定の際に、時間軸の明確化を含めて「31年度のありたい姿」として再整理。
利益「率」によりこだわる経営

2028中計では、利益「額」はもちろんですが、利益「率」によりこだわった経営に本気で変えていきます。それに向けては、まずはROE を2028中計の最重要指標に定め、当社グループが認識する株主資本コストと同水準である10%まで引き上げることを2028年度の目標としました。具体的にROEを向上させるためのドライバーはROAの向上です。ROAを向上させるためには、これまでのようなバランスシートの拡大による利益額の追求は行わず、事業ポートフォリオの大胆な入れ替えを通じて、総資産の拡大を抑えつつ高収益分野への成長投資を進め、収益性と成長性の高い事業ポートフォリオを構築していきます。資産の入れ替えはこれまでも行ってきましたが、2028中計の3年間では2兆円規模の入れ替えを計画しています。当社グループとしてはこれまでにない大きな規模での入れ替えとなり簡単ではありませんが、これくらい大胆に行わなければ収益性を引き上げることが難しいという危機感の裏返しでもあります。大きな挑戦となりますが、必ず成し遂げたいと思います。
それでも、中長期的な企業価値向上に向けては、株主資本コストと同水準であるROE10% は決してゴールではなく、むしろスタートラインだと考えています。2031年度に向けては、これをさらに上回る水準をめざします。
こうした戦略を支えるためには役員の意識から変えていく必要があると考え、役員報酬体系の見直しという大きな決断をしました。最重要指標であるROEの評価ウェイトを大きく引き上げ、ROE重視を明確化しました。加えて、株式報酬部分についてはMHCエンゲージメント※2などの非財務KPIを新たに導入しました。戦略を評価と連動させ、実行力を高めていきます。
- ※2「従業員が一丸となって価値創造に取り組んでいる状態」をMHCエンゲージメントが高い状態と定義。(MHC=三菱HCキャピタル)

2兆円規模の事業ポートフォリオの入れ替えは、これくらい大胆に行わなければ収益性を引き上げることが難しいという危機感の裏返しでもあります。
「変革」マインドを企業文化として定着させる
これまでさまざまな施策によって「変革」の機運を社内で醸成してきましたが、2028中計では、これを企業文化として定着させるフェーズに移行していきます。冒頭で、「10年後に当社グループは存在していないかもしれないという強い危機感を払拭するには至っていない」というお話をしましたが、この背景には、これまでと同じやり方を踏襲していこうという前例主義や、自分で考え自分で責任を持った判断をしない指示待ち文化、自分の部署のことしか考えないセクショナリズム(タコツボ文化)といった、いわゆる大企業病の症状も社内で目につくという点があります。これは2021年の経営統合を経て、会社が大きくなったことも一因ではないかと考えており、強い危機感を持っています。このような事象は、「変革」の阻害要因となるだけではなく、組織を弱体化し当社グループの存続を危うくするかもしれません。まだ芽のうちに早期に摘み取りたいと考えています。そのためにも、「変革」や「挑戦」のマインドを企業文化として定着させていく必要がありますが、企業文化として定着させるということは、社内だけでなく社外の方々にも当社の変化を実感してもらえるくらいの変化が必要です。2025中計では「トライ&エラー」を社員に求めてきましたが、2028中計ではそれで終わりにせず、「トライ&エラー、ラーン&トライ」を実践していきます。
あらゆる戦略の源泉、起点は「人」と「企業文化」です。どれだけ優れた戦略を掲げても、それを実行する「人」の行動が変わらなければ成果には結びつきません。個々の社員が主体的に考え、挑戦し続ける状態を当たり前のものとし、その積み重ねが組織全体としての競争力に転化されるよう、企業文化の変革に本気で取り組んでいきます。
なお、すでにお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、当社グループは今年度より、あらゆる媒体で「人材」の表記を「人財」に変更しました。こうしたことも「人」こそが「財産」であるという私の強い思いが反映されています。
2028中計は「31年度のありたい姿」の実現成否を左右する重要なマイルストーン
「31年度のありたい姿」の実現に向けては、ビジネスのやり方や会社のあり方そのものを進化させていく必要があります。これまでの2025中計では、「変革」の土台を築き、そのマインドも着実に芽吹いてきましたが、その「変革」を企業価値の向上という具体的な成果へつなげていくためには、もう一段踏み込んだ取り組みと、明確な成果が求められます。
今、当社グループの「変革」は、萌芽から拡大へと移行する過渡期にあります。この段階において重要なのは、変革の必要性を認識することではなく、それをやり切り、成果として定着させることです。ここで実行力をともなわないまま次のステージに進もうとすれば、これまで積み上げてきた取り組みが一過性のものとなり、従来の延長線上に回帰してしまうかもしれません。
その意味で、2028中計の3年間は極めて重要な分岐点にあると認識しています。中長期的な到達点である「31年度のありたい姿」は、単に時間の経過とともに実現されるものではなく、こうした節目において確実に「変革」を前進させることで初めて実現に近づくものです。2028中計は、その成否がそのまま将来の成長軌道を左右することから極めて重要なマイルストーンであり、「収益性を高め、企業価値向上を加速させていくフェーズ」と位置づけています。資本効率や収益性といった質の高い成長へと経営の軸足を移し、その結果として持続的に価値を創出できる体質へと進化していきます。
不確実性の高い経営環境においては、単に変化に対応するだけでは不十分であり、自ら変化を創り出し、その成果を持続的な成長につなげていく力が求められます。そのために、2028中計では、先ほど述べた通り、収益性を重視した経営への転換と、企業文化変革のさらなる深化を両輪として推進し、「変革」を一過性の取り組みに終わらせることなく、組織としての競争力に昇華させていきます。「変革」はなお途上にありますが、企業価値は着実に向上しており、中長期的な成長に向けた足場は確実に整いつつあります。そして何よりも、当社グループには変化を前向きに捉え、自ら成長を切り拓いていこうとする力があります。私は、当社グループの未来は明るく、さらなる成長に向けて大きく踏み出していけると確信しています。

不確実性の高い経営環境においては、自ら変化を創り出し、その成果を持続的な成長につなげていく力が求められます。
アセットの潜在力を引き出すことで、社会価値を創出する
ここまで一貫して「変革」の必要性についてお話ししてきましたが、最後に、私が社長として、「変えるべきではない」と考える2つのことについてお話しします。
当社を取り巻く外部環境は、グローバリゼーションの巻き戻しや世界の分断・変質、中東情勢の不安定化、またAIの急速な進展と関連市場の新たな拡大など、従来以上に不確実性が増しています。これらの変化は単なる景気循環の範囲を超え、産業構造や競争環境そのものを変えつつあり、より柔軟で迅速な意思決定と実行力が求められるようになっています。
このような環境においては、外部環境に振り回されるのではなく、自らの強みと方向性を明確にした上で、状況を冷静に見極めつつ、リスクと機会を的確に見極めながら主体的に成長戦略を描き、実行していくことが不可欠です。そのためには、短期的な環境変化に対応する柔軟性と中長期的にぶれない軸を守ることの両立が必要です。
当社グループとしての軸とは、すなわち経営理念にある「アセットの潜在力を最大限に引き出し、社会価値を創出する」こと、つまり「アセット」にこだわるということです。当社はこれまで、リースやファイナンスにとどまらず、アセットの価値を多面的に捉え、その潜在力を引き出すことで、事業と社会の双方に価値を生み出してきました。この「アセットの専門家」としての知見の蓄積こそが、当社グループの競争優位の源泉であると考えています。
今後、事業環境の変化に応じて、当社のビジネスモデルをさらに進化させていく必要があります。事業領域や収益構造、さらには価値創出の方法自体も変えていくことになるでしょう。しかしながらその一方で、どのように変化しようとも、「アセットの潜在力を最大限に引き出す」という本質的な強みとこだわりは決して揺るぎません。変えるべきものは大胆に変え、守るべき軸は決してぶれさせない、その両立こそが不確実な事業環境においても持続的な成長を実現させるのです。私は社長として、その軸を明確に持ち続けながら、変化を恐れずに挑戦し続けていく決意です。
これが私が社長として「変えるべきではない」と考える1つ目の点です。
株主・株価を意識した経営

私が社長として「変えるべきではない」と考える2つ目の点は、投資家の皆さまをはじめとする社内外のあらゆるステークホルダーの皆さまに向けて、市場評価の1つである株価を意識した経営を徹底していくことを明確にすることです。ここでいう「株価を意識する」とは、短期的な株価変動に一喜一憂することなく、中長期的な企業価値の向上を通じて、市場から持続的に評価される経営を実践することです。
PBRを構成する要素のうち、株主資本コストを上回るリターンの創出力を測るROEを2028中計の最重要指標としたことは既にお話ししましたが、企業価値の向上に向けてはROEの改善だけではなく、市場に当社グループの成長期待を適切に織り込んでいただくことも不可欠であり、その観点からPERの向上にも注力していきます。
PERの向上に向けては、企業文化変革を通じた持続的な成長力の強化が基盤となりますが、それに加えて市場の皆さまとの対話を通じて、当社グループの成長ストーリーを正しくご理解いただくことが重要だと考えています。今後は、これまで以上に対話の機会と質を高め、経営の考え方や意思決定の背景を丁寧に伝えていきたいと思います。
その上で、さまざまな施策を通じて市場の皆さまとの信頼関係を積み重ね、確かな価値を提供し続ける会社へと深化していくことをお約束します。どうぞ当社グループのこれからの成長にご期待ください。